テーマ2 パパの介護

【第11回 ペインコントロール・その合間に】

2つの苦しさ

徐々に水分を飲んでもむせるようになってきました。
痛み止めの麻薬性鎮痛剤の副反応です。
痰が溜まっても上手に吐き出せず、呼吸をするのにゼイゼイと音がします。

自ら吸引を希望し、看護師の方の協力は多大です。
タイミングを合わせて、痰を引きます。
吸引時は一時苦しくても、その後楽になるとのことで、父の選択です。

2つ目は、動脈瘤の出血による激痛です。
昨日午前中は、30秒、2回ほどの出現でした。
しかし昨日夜からは、数分間続く激痛が5回も6回も繰り返します。
さらにインターバイルは、5時間ほどでしたが、今や3時間ほどで次の痛みの波が押し寄せてきます。

楽しみ

主治医は、何を食べてもらっても良いですよとおっしゃって下さいました。
むせはあるものの、毎晩食べていたアイスクリームを食べてみることにしました。

私がバニラアイスを買ってきました。

「バニラアイスよりアイス(かき氷系)の方が良いかもなぁ」
父がそう言いながら、半分ほど食べてくれました。

この後の吸引では、しっかりとバニラアイスが引けました。
それでも、病院の皆様のご協力に感謝でいっぱいです。
一つひとつが思い出に刻まれます。

仕事を納める

父は今でも会社を経営しています。
4年まえに株式会社を閉じ、個人事業主として継続してきた、アルミ金型材の加工及び販売の仕事です。
実質、父の指示を受けながら、私が活動していました。

本日父は、長らくお世話になった関係先に自ら電話で連絡し、今後についての引き継ぎをしてくれたのです。
もう残された時間は半日です。
酸素を投与していても、呼吸が安定しない父です。
それでも自ら電話をすると言ってくれるのです。
それは残された私が困らないように段取りをつける為です。
電話で話し始めると、急激に酸素濃度が下がってきて、ステーションの看護師が飛んでこられました。

それでも父は話し続けます。
看護師の方が気を使い、そっと酸素のℓを上げ、対応してくれます。

徐々に呼吸が安定し、滑舌がはっきりしてきます。
目が爛々と輝き、アドレナリンが高まっているのがわかります。
私たち娘は、声量が途切れないように、父の腹部を押さえます。
要するに会話をアシストするのに、腹圧をかけるのです。

1人目、2人目、3人目、なんと全員に連絡し終えたのです。
「これでいいやろ、ここから先はお前で出来るな」
今までお世話になった方々への感謝を形にする、義理を通す、これが父親の流儀でした。

麻薬鎮静剤+鎮静剤のタイミング

どうやら、痛みの兆候が出てしまうと、大きな痛みにつながり、その波を避けることは出来ないようです。
調子の良い時間を継続させるには、前もっての麻薬投与、今で言えば3時間を目安に試みてくれています。
ただ、痛みの間隔は確実に短くなってきています。

とにかく痛みの兆候が出そうになったら、すぐにショットで痛み止めを入れてもらえます。
ここまで厳密に対応して頂けるのは、病院ならでわのメリットです。

本日主治医の先生から、痛み止めのコントロールに加え、ウトウトする薬を使うことにしますか?とお話をいただきました。
ぼ〜と眠っていくお薬です。

「はい、そうしてください」
父の返事でした。

今は、穏やかに呼吸して普通に会話をしています。
全てをやり切ったようで、全て父の選択です。

その後、2人きりになった時、私が父に言ったのです。
「パパ、もう目が覚めなくなるかもしれないよ」

「うん、もうすることしたやろう」

「そうね」
「でももう、私と話せなくなるよ」

「そうやな」

「あのね、明日、明後日と私は出張なの」

「そっか」

「だからね、もしかしてもうお話ができないかも」

「そっか、全部は言わんでいいよ、お前の気持ちは分かってる、今まで良くやってくれた」
私が泣きながら言うと、ポンポンと私の頭を撫でるのです。

「そっかぁ、明日と明後日か」
父が言います。

この夜は、妹が泊まってくれました。
私が見てるから大丈夫と言ってくれます。

「パパ、明日とりあえず夜は戻ってくるね」

「うん、待ってるよ」

【続き 第12回 待っててくれてありがとう】