テーマ2 パパの介護

【第8回 その時がやってたき】

夜間救急にて

夜間救急の待合室です。
何度この景色を見たことだろう。
今日は、以前とは違う心境です。

理由は、今度動脈瘤が破れても、手術はできませんと言われていたからです。
当然と言えば当然です。
胸部大動脈瘤2回、腹部大動脈瘤2回の手術後は、生身の血管がないくらいステント等で覆われています。
そして圧は、弱いところ、弱いところを狙って悪さをします。
父の病巣は、身体の中枢の奥深い部分にあり、手術となると大掛かりで、年齢的には耐えられないだろうとのことでした。

前回の手術後の回復でも、急性期、回復期と合計半年間のリハビリが必要でした。
何のために手術をするか、それは、その向こうに見える次の生活が描ける時です。
今回それは望めない、それは本人と家族が一番良く分かっていました。

2時間後、救急外来の先生から告げられた検査の結果は、やはり胸部大動脈瘤からの出血でした。
とうとう、この時がやってきたと、医療者である私ながら、再認識させられた瞬間でした。

一般病棟へ

「入院が決まり、病棟へ移動しますね」
通常の痛み止めで少し痛みがおさまったようです。

「家族はいるか」
処置室から出てきた父の声が聞こえました。
先ほどの七顛八倒の様子から、救われた声がします。

ここから先、父に残された時間は、私たち家族と共有するために与えられたものです。
後、どのくらいあるのだろうか?
今日?
明日?

病棟のベットに横たわり、父が改めて言います。
「来る時がきたんや、ハハハ」

「そうみたいやね」
「怖くないの?」

「何が怖いねん、全くや」

その会話を聞いて、点滴を調整してくれていた病棟の看護師も穏やかな笑顔を向けてくれました。

とりあえず、この日は母が残ることになり、私たち姉妹は家に戻りました。
朝の5時、夜明けの景色が現実を実感します。

【続き 第9回 奇跡の時間】