テーマ2 パパの介護
【第17回 満足に満ちたお葬儀(後半)】
葬儀関係者の方々のお心遣い
父は阪神タイガースファンでした。
そのため、湯灌後の衣装は、阪神タイガースに関連したスーツです。
一見通常のスーツですが、裏地に阪神カラーやエンブレムが付いていて、ボタンもさりげなく阪神マークです。
物欲の無い父でしたが、仕事着のスーツだけは、公式ショップでオーダーしていたのです。
スーツに気がついた人とは、阪神の話題で盛り上がると喜んでいました。
葬儀関係者の方が、もし良ければと2つ提案くださいました。
納棺後の顔周り、通常なら白い綿を重ねるのですが、白、黒、黄色の綿で仕上げてみませんかと。
さりげなく阪神カラーとなり、嬉しい提案でした。
会場に流れるバックミュージックは、静かなトーンの六甲おろしです。
葬儀を葬儀で終わらせるのではなく、故人に何かしてあげたい私たちの気持ちを支えて下さるのです。
そして、これだけではなかったのです。
父は新聞を読むのが日課でした。
亡くなる前日の夜も、夕刊を買ってきて欲しといい、読んでいました。
そのため、棺桶に入れる副葬品を聞かれた時に、大好きな囲碁の碁石の他に、その日の朝刊とめがねを入れる準備をしていたのです。
すると係の方が、これもいかがですか?と、渡してくださったものがあります。
それは、昨年阪神タイガースが優勝した時のスポーツ祇でした。
「いや、でも、こんな貴重なもの」
思わず驚きました。
「いつか、阪神ファンの方が見えて、ここぞという時にお出しできたらと思っておりました」
「よければどうぞ、差し上げてください」
何とも心温まるサプライズでした。
本当にありがとうございました。
こうして、沢山の方々のお心を頂きながら葬儀場を後にしたのです。
3つ目の軌跡
火葬が終わり、骨上げの時間です。
担当の方が、骨の各部位を説明しながら、それぞれが一つまた一つと骨壺に収めていきます。
自歯であった父の上顎、胸部付近には、父の手術跡も残っており、色々感じることがありました。
そんな時に、ふと、これは何?
丸く平たい、小さな白いものが見つかりました。
何と、阪神マークが刻まれたまま原型を留めていたスーツのボタンではありませんか。
全員が驚きと同時に爆笑です。
「すごい、これ燃えなかったの?」
「どうして?」
「阪神マークだよ」
父らしく、ここでも話題を提供してくれたのです。
一つ、二つ、三つ、大小のボタンが原型を留めています。
通常は溶けるものですが、ボタンが天然の貝で出来ていた為、火力に耐えたのだと言われました。
これが3つ目の軌跡でした。
姪っ子が、そっと持ち帰り、修繕して、私達にプレゼントしてくれました。
あの時、そんな発想は私たちにはありませんでした。
大好きなおじいちゃんと私たちを繋ごうとした、彼女なりの愛情です。
とても大切な宝物となりました。