テーマ2 パパの介護
【第14回 充実した最期の時間(後半)】
2度目の軌跡
夕方4時過ぎ、病室は2人きり。
努力呼吸が続くので、口腔の乾燥を気にかけつつ、用事をしていました。
しかし、ふと、もうダメかな、深い眠りに入っているしなと思いつつ、父に話しかけてみたくなりました。
「パパ、分かるルミ子だよ」
すると、父が目を開けてくれたのです。
見えているのか?焦点は合っていなかったように感じました。
見えてない中で、私の声を頼りに眼球が追っかけている、そんな印象でした。
「パパ、ルミ子はパパの子供で本当に良かったよ、ありがとうね」
すると、満面の笑顔で反応してくれたのです。
目じりを下げ、口元が上がり、それはそれは最大級の笑顔です。
思わず号泣してしまいました。
最期の力を振り絞ってくれたのです。
しばらく2人だけの時間を過ごした後、妹が戻ってきました。
私は、今の奇跡の話をして、妹と2人だけにして、居室を出ました。
やはり妹も、同じように満面の笑顔だったと泣きながら話してくれました。
次に母が戻ってきたので、2人で退室しました。
夫婦の最期の時間、母なりに語り掛けた後、2人の若いころの流行りの音楽をかけて過ごしていました。
それ以降、父が目を開けることはありませんでした。
血圧が低下、酸素が測れず、努力呼吸が続きます。
夜7時過ぎ、努力呼吸が下顎呼吸に変わってきたようでした。
それでも、手を持つと、僅かに指先が曲がります。
小さな、小さな反応です。
7時半過ぎ、心拍数が低下してきたので、看護師の方々が訪室されました。
少し音がしますが、ベッドサイドモニターを付けても良いですかと聞かれました。
モニターの心電図は、平らな波形でツ—————————————、波形ピコン。20秒くらいに一回です。
装着後数分で、波形が平らになりました。
同時に下顎呼吸が止まりましたが、最期に舌が、ピクピクと僅かに動き止まりました。
家族が見守る中での旅立ちでした。
私は、一生分のありがとうを伝えられたでしょうか。
「よくやってくれた」
そう言ってくれた父の声が私を支えてくれています。