テーマ2 パパの介護

【第10回 先生が穏やかに・はっきりと】

父らしい

朝一番
「朝刊を買ってきて」

「わかった」

これが家だと、朝刊取ってくれ、夕刊取ってくれの言葉に変わります。
父はどんな時でも新聞を読みます。
この状態でも興味は衰えないようです。

しかし読んでいた途中です。
「ちょっとしんどくなってきた」
「ベッドを横にしてくれ、少し寝る」

そこから段々と痰の絡みが強くなります。
自力で出そうにも出ないので、苦しそうです。
頻回に唾液を吐き出し、そこには血がまじっています。

「吸引してもらう?」
私が父に問いかけます。
吸引は苦しいので嫌がるかしらと思ったのですが、やってみるというのです。
自分から積極的に口を開け、看護師の方が実施してくださいます。
当然実施中はしんどいですが、やれば楽になるので、これは良いと言います。

何事も嫌がらず、チャレンジ精神の父です。
先入観を持たずに進めてみるものだと感じた出来事でした。

いい先生やな

昨日より少しレベルがダウンしているなと感じました。
昨日に引き続き、兵庫県温泉町の地元から4番目の長女と5番目の4男と奥様が面会に来てくれました。
昨日と同じで、まだまだ話せることに、驚かれます。

「母親は何歳まで生きた?」

「93歳や」

「父親?」

「88歳や」

「唯一の後悔は、親の歳を越えれなかったことや」
「そこが申し訳ないなと思うところや」

そこに主治医の先生が診察に来てくださいました。
緊急入院後では、初診察です。
父が絶大な信頼を置いている先生です。

「井上さん」

先生の顔を見ると、微笑んで父が言います。
「先生、とうとう来ましたわ」

「そうですか」
「今は痛みは?」
先生は、膝をついて父と目線を合わせ、父の事実を包含してくれるような温かい言葉を続けます。

「これだけは順番ですね」
「誰もがいつかは、おやじやお袋に会いにいくんですよ」
「ぼくらに出来ることは精一杯させてもらいますね」
「こんなにご家族がいらして、幸せですね」

「はい、先生」

「僕はね、井上さんから学びました」
「下半身が動かなくなった時も、前向きに生きる、囲碁を楽しんでいる姿を見て、僕もこうなりたいと」
「なかなか、出来ないものですよ」
「井上さんの人徳ですね」

父と先生の会話を妹弟が聞いています。
はっきりと、誠実に父と向き合ってくれている先生を見ていいます。
「いい先生だね」
「日常で自分が知っている先生像とは全く違う」
「正直に患者にも向き合い、信頼し合っている」

この後も、昨日訪問の孫と孫の義母様、再度訪問の3男が来てくれました。
同じく昨日号泣されていた郷土人会の方からも電話をいただきました。

昼から、一時的にショットで痛み止めの量を増やしました。
痛みを取り除くことを、医師と看護師の連携でサポートくださっています。

【続き 第11回 ペインコントロール・その合間に】