テーマ3 個人に向けた支援

奥様の想い、在宅介護の実現

お帰りなさい

「お帰りなさい」が言えました。
囁くような「お.は.よ」が聞こえました。

昔からお世話になっていた方が、救急で入院して5ヶ月。
見る見る寝たきりに、そして医療の依存度が高まり、3つ目の転院の話しが出た時です。
私の提案は、医療関係者の皆さんの想定とは大きく異なり”在宅医療に切り替える”でした。

在宅では高齢の奥様の2人暮らしです。
38度の熱発、IVH(持続点滴)、トラブルを抱えた胃ろう、在宅酸素、そして適宜必要な吸引、血糖測定。
誰が聞いても「無理でしょう」 が聞こえてきます。
これが世間一般の反応です。

一方、私にはお二人と過ごした時間があります。
認知症が進行し、自身の悔しさに涙され、記憶が薄れる中にあっても、私への気遣いと愛情を感じない日はありませんでした。

本人から伝わる「自分らしく生き切りたい」は、私に託されたメッセージです。
迷う事のない発言でした。

「3つ目の病院へ行った先にどんな未来が見えますか?」
これが私が投げた問いでした。

未来はつくる

私には、在宅での未来が見えます。
そこには、奥様とのかけがえのない時間、お二人の今までを尊び、まさに今この一瞬一瞬を慈しむ未来です。
ご本人の存在そのものが、それを可能にできるのです。

結果、在宅復帰に向けて、病院、ケアマネ、訪問看護、訪問医療、訪問介護、訪問入浴で、一つのチームが出来上がりました。
在宅復帰に向けて、それぞれが専門性を発揮くださったからこその実現です。

目指すのは、治療ではなく、お2人にとっての豊かな時間です。

私はと言うと、専ら奥様の不安を軽減し、吸引を指導し、夜の様子観察も兼ねて、一週間サポートをかね宿泊をさせて頂きました。
日中はいつも通りのペースで仕事をし、本日全て終了しました。

奥様の吸引その他の医療技術は合格!

そして最大の合格の決め手は、奥様の姿でした。

「考えてたほど大変やなかったわ、吸引も上手になったやろ?」
「アラームが鳴った夜も、ちゃんと看護へ連絡できたし、一週間の流れ、1日の流れもつかめたわ」

2人で楽しみながら進めていきました。
「本人の好きな演歌をかけてあげよう!」
「看護師さんやヘルパーさんが、動きやり易くするには、ここに棚があった方がいいかな?」

「やっぱり人の役に立つって嬉しいね」

こうして、いつもの奥様に戻っていました。
本人に話しかけ、演歌に合わせて鼻歌が聞こえてきます。

相変わらず、発熱し吸引が必要な毎日です。
それでも、奥様の眼差しは”大変な状況”ではなく”やりがい”に向きつつあります。

多くの関係者の皆様あってのプロジェクト成功です。
思いは叶う、感謝しかありません。
(2021.3.7)