テーマ1 ママの医療
【第35回】次から次から症状出現
在宅酸素導入・血圧が220代
20日(金)、嘔吐を繰り返すので、顔は左右のどちらかに向けた対策をとります。
初回の嘔吐も左に向いていたので誤嚥は免れました。
上を向いた場合、自分の吐いた吐物を自分で吸い込むと、窒息や誤嚥性肺炎の原因になるからです。
このころ血中酸素濃度(以下SPO2と表現)93%代を示すことが多くなりました。
看護師が提案してくれ在宅酸素を1Lからスタートすると、98%となり呼吸様相が楽になりました。
また誤嚥性肺炎の対策として、徹底的な口腔ケアを行います。
この時はもう、点滴のみで食べることはありません。
そのため、口腔内は細菌が繁殖しやすくなります。
食べない、喋らないからこそ、口腔ケアが重要になってきます。
1日5〜6回実施。
おかげで聴診器による胸の音はクリアで、肺炎の症状はありませんでした。
この夜、初めて体温37.8度となり、アセトアミノフェン坐薬を挿入し抑えました。
21日(土)の朝方を最後に嘔吐がおさまりました。
しかし22:00ごろ次は、眼球が黄色で内圧が上がっているように目を見開いています。
おかしいと思い血圧を測ってみると、220代と今までにない値です(140〜170代を経過)。
脳内の変化が考えられるこの段階で、血圧を下げる治療はありません。
自然に下がるのを待つしかありません。
そこで、少し上半身をギャッジアップしました。
呼吸も少し苦しそうなので際素流量を1.25Lから1.5Lへ上げました。
しきりに腹部に手を当て、お腹を摩る動作が見られたので、お腹の違和感を感じているようです。
嘔吐が続いていた中、逆に排便がみられず腸閉塞を疑うなど気になっていました。
とにかく痛みを和らげるのに、低温やけどに気をつけながら、腹部にカイロを貼ってみました。
体全体を3点クーリングで冷やしながら、腹部はカイロで温めている状態です。
高熱40度近く
23日(月)、緑黒色の水溶便が少量出現しました。
血圧も140代と安定してきましたが、今度は39〜40度近い高熱の出現です。
バイタル維持中枢そのものに問題があるからか、坐薬の効果が期待ほどではありませんでした。
外見上は、寝ているようですが、高熱なのでしんどくないはずがありません。
そこで全身のクーリングを施します。
首下、右脇、鼠蹊部、首の頸動脈付近にアイスノンを用います。
太い動脈を通して、直接温度を下げると体温も下がります。
訪問介護、訪問看護の時間、それ以外は家族が、適宜クーリングを更新していきます。
数日経過すると、様子がわかってきます。
坐薬もそれなりに効果はありますが、やはりクーリングが一番です。
何もしなかればすぐに38度になりますが、クーリングを継続することで、37度前後が保てることを発見しました。
そのため、常にクーリングすることで、37.2度前後が母親の安定した状態となりました。
点滴での補液が命綱
これだけ発熱すると、体内に取り込まれる水分(点滴)は貴重です。
点滴は、できるだけ少量で長時間をかけて体内に入るよう、滴下を夜中に終わるよう調整します。
点滴といえば、血管を保護することが重要になります。
留置針とはいえ、長く留置していると点滴液が漏れ、新しい血管を探すという繰り返しです。
退院時はツインパルという糖、電解質、アミノ酸、水分を補給する輸液剤を使っていました。
これで抹消点滴から取るカロリーとして400キロカロリーほどです。
一方現在使用中のソルデムは、水と電解質(イオン)を主成分とした輸液剤です。
ツインパルのように、ブドウ糖の濃度があると静脈炎のリスクが高くなります。
浸透圧の差が血管内皮を刺激するからです。
そのため、点滴で長期的に高カロリーを取ろうと思うなら、中心静脈栄養(IVH)となるのです。
母親の場合、命の綱である血管というルートを保護する必要があります。
そのため退院時に、ツインパルからソルデムに切り替え、食事でカロリーを摂ることを期待しました。
結果この段階では、食事を食べることもできていませんが、だからこそ、余計に血管を大切にしながら補液と脳浮腫治療の目的に専念できたのです。
それでも、幾度か点滴液が漏れ、徐々に血管が少なくなってきています。
そこで狙った血管は肘正中の静脈です。
太くて安定しますが、曲げるリスクがあります。
そこで、牛乳パックを活用してシイネ固定で様子を見ます。
紙なので程よく変化し、軽くて角もなく、特に体位交換時に気づかず肘が曲がるという動作から守ってくれます。これは大活躍でした。
水様便・オムツかぶれ対策
ここ数日嘔吐が続いていた時は腸閉塞を疑いつつも、看護師の聴診で腸が動いているので排便を期待していました。
少量の排便を見た時はホッとしましたが、今度は、緑色の泥状〜水様便が続きます。
胆汁が腸で吸収されずに排泄されている状態です。
緑色嘔吐の症状を合わせると、消化管が正常に働かなくなっています。
また消化液である水様便は2日も続くと、肛門周囲がただれ、表皮が剥けてきました。
褥瘡を作りたくないことはもちろんですが、オムツかぶれも同じです。
ひっきりなしに続く便、臀部の皮膚は常にそれに触れていることになります。
なんとかできないものかと考えていると、訪問看護の方が、提案くださいました。
ゲンタシン軟膏と亜鉛化軟膏で創部を覆うのです。
亜鉛化軟膏は油分が多く、ねっとりしていて、流水でもなかなか取れません。
通常なら薄く塗るのが適量なのでしょうが、看護師は、あえてたっぷり塗ることを助言くださいました。
目的は、便汁が直接肌に触れないためです。
さらに塗布薬剤の上を、カットした下着などの綿の端切れで覆うのです。
オムツで擦れたり、オムツのポリマーが薬効をダウンさせてしまうことを防ぎます。
それだけの効果でありません。
端切れと塗布薬で創部をラップするので、薬が長く留まります。
かつ、排尿や排便からの直接刺激を防いでくれます。
母が着慣れていた下着は柔らかくなっています。
それをハサミでカットし、たくさんの枚数をストックします。
オムツ交換の度に洗浄し、塗布、布ラップ治療を繰り返していると、徐々に改善してきました。
一般に低タンパクの身体では、劇的な治癒は期待できません。
それでも少しづつ良くなっていきています。
少なくても悪化はしていません。
どんな状態でも人に備わった治癒力があるのだと実感しました。