テーマ1 ママの医療

【第33回】家での様子

13日(金):退院初日

ともに過ごしてくださるIさんが夕飯を作ってくれます。
この日は、湯豆腐とつみれ、ひじき、卵焼きです。
この日だけ車椅子で鍋を囲みました。

元気なころ、豆腐が好きだった母です。
病院食をほとんど食べませんでしたが、馴染みの味に反応してくれます。
帰って来れて良かった、庭が懐かしいと喜んでいます。

この夜、私が帰宅後、Iさんから電話がありました。
「痛い、しんどい、ルミ子はまだか〜」とうなり出したようです。

シャワーを浴び戻るように準備していたら、寝入ったそうです。
この日は朝まで、グッスリでした。
きっと病院でも、夜はこんな様子だったのだろうと想像します。
今は、知った者が側にいるだけに安心しているようです。

14日(土):退院2日目

朝食は、ロールパン・ハム・温泉卵、少しコーヒー
いわゆる、今までの朝食です。
夕食は、けんちん汁、ほうれん草のおひたし胡麻和え、白ごはん、らっきょです。

これまた、母の好きなラインナップです。
同郷のシンパシーをIさんから感じます。

また、自分が漬けたらっきょが美味しいと話してくれます。
らっきょの入った皿を自分で持ち汁を飲みます。
「おいしい?」

「うん」

「まだ飲む?」

「うん」
もう一度、汁だけ入れてきて渡すと全て飲み干しました。
どんなに病気でも、その人にとって食べたいものがあるんだと実感した瞬間です。

この日、孫がひ孫を連れて訪れてくれて、とてもうれしそうでした。
家族が増えたのを見届ける母の実感が伝わってきます。
唯一動く左手で、ひ孫の頭を撫でながら、その眼差しは優しさに溢れていました。
唯一無二のおばあちゃんの顔です。

夜は、寝させてあげたいとプロマゼパム坐薬3mg1本使用しました。
Iさんいわく、豪快なイビキをかいて1度も起きなかったそうです。

15日(日):退院3日目

朝食は、おかゆ、温泉卵、らっきょ、ひじきです。
昼食は、うどん。
夜は、肉じゃが、カレイ干物(焼き)、ほうれん草卵とじ、ご飯、ポテトサラダ

私たち家族がノンアルコールビールを缶で飲んでいると、

「それ何、ビール?」

「そうだよ」
「ん?飲みたい」

「うん、飲みたい」

ストローで水を飲むのに介助しながら一苦労のレベルです。
しかし、グラスにビールを注ぐと、自分から飲むのです。
冷たいビールをコップ1杯飲みました。
ビールという雰囲気が、食を進めている感じです。

Iさんが、庭のもみじの枝をカットして1輪飾ってくれています。
前日の眠剤が効いているのか、起こすと目を差ますが、また寝入る状態です。
そのため、この日は薬を見送ることにしました。

うとうとは長くは続かず、この日の夜は断続的に目ざめ、痛い、しんどいを繰り返したそうです。
12時、1時半、4時、5時、7時、それぞれ15分ほど続き寝入るそうです。

16日(月):退院4日目

朝食は、ロールパン、ポテトサラダサンド、ヨーグルト、温泉卵
夕食は、白菜・油揚げ・天ぷら煮、肉じゃが(残り)、味醂干し(焼き)、ポテトサラダ

かつての父の会社の社員さんが、11月に送った父の喪中ハガキを見て訪ねてきてくれました。
母の状態を知って驚かれたようです。
母は懐かしいと、ずっと手を握って嬉しそうだったそうです。
Iさんが、庭に咲いた寒椿を1輪飾ってくれてます。

この日は、プロマゼパム坐薬3mg半分を使いました。
この日は、坐薬が効いておらず断続的に起きてしんどさを訴えたそうです。

17日(火):退院5日目

朝食は、ロールパン(少し)、ポテトサラダ(多め)
ポテトサラダに手が伸びたそうです。
夕食は、肉じゃが(知人の方が持参)、白菜の煮物、ポテトサラダ、ごはん、のり、しそ昆布

昼間もしんどさ、気だるさがあるのか、時々訴えますが、話しかけるとそちらに意識が向く感じです。

「ママ、ビール飲む?」

「うん」

「晩酌しようか、乾杯」

ビールは舌先でなく喉で飲むと言っていた母です。
喉越しが良いのか、自らグイグイと飲むのです。
それにつられ、開口一番食べたくないといいながらも、この日は一番ご飯を食べてくれました。

夕食後、突然、痛みを訴え始めます。
いつもなら、口腔ケアを嫌がらない母が、やらせてくれません。
とりあえず、なんとか口をゆすぎ、ベッドを平らにします。

「痛い、だるい」

「どこが」

「わからん」

薬局へ電話し、在宅に置いてある薬の薬効を確認します。
在宅医が11種類の貼り薬、飲み薬、坐薬の鎮静剤系を準備してくれています。
解熱剤を除くと、痛み止めは麻薬や連続的に使用し続ける薬に絞られます。
その中で、頓用でオプソ内服液(モルヒネ)を飲ませました。
頓用なので、必要に応じて飲む薬です。

しばらくすると痛みが無くなったようです。
穏やかに眠り始めます。

【第34回】薬の選択は正しかったのか