テーマ1 ママの医療

【第17回】この症状は何?

お箸を落とすから始まる

10月28日は、治療薬キイトルーダへ変更して3回目の注射日。
血液検査も順調と先生。

しかし、1週間ほど前から、母に気になる症状が出てきました。
それは、右手の指先の感覚が鈍って、掴んだ物が落ちるのです。

先生いわく、両腕なら薬の副作用も考えられますが、非対称の症状なので考えにくいとのことです。
脳神経外科の受診もできますが、どうしますかと聞かれ、母がもう少し様子をみるとのことでした。

だんだんエスカレート

日に日に動きが悪くなってきました。
お箸やスプーンが握れず、ストン、ストンと落ちてしまいます。
診察時は1~2回だった現象が、5日経過した今で5~6回です。

握っているつもりでも、コップに手が届いていません。
コップの手前で手を動かしていますが、後10㎝向こうにコップの取っ手があります。
そう、今までの感覚で指を伸ばしているつもりですが、指は曲がったままです。

「指が開いてないよ」

「え?」
開いてるつもりなのにと本人
そして意識すると開くのです。

「ボタンが留められない、20分かかったの」
「右手の自分の指が邪魔してたの、左手で触って気づいた」

「あれ、もう1本お箸がないわ」
右手で持っていたのですが、握っていることに気づかないのです。

「プールで泳いだら分かった、右腕の前腕からしびれてる」
「クロールすると、右腕が少し遅れている」

私は笑いで受け止めた

治療薬の影響か、疾患の影響か、症状というオマケがやってきました。
どちらにしろ、優先順位は治療であり、疾患なら今の現実が丸ごと母親だということです。

症状が出た際に、人はいろいろな反応を示します。
「どうしたのと声をかける人」
「気の毒がって励ましてくれる人」
「気づかない振りでそっとしておく人」などなど

私はというと、
「あれ、まただね」と笑って受け止めました。

母も私に釣られ、情けなさの向こうにある、笑うしかないよねに反応。
「そうなの」と笑って緊張が解けてきます。

深刻に考えても、状況は変わりません。
それなら、今の母でいい、症状は冗談やなぞなぞのような存在。
避けるわけでもなく、さりとて卑下するわけでもなく、母の一部。

「昔は白魚のようなきれいな手で、皆に褒められたのに」
「先生も思わず綺麗だと握ってきたのに、こんなに曲がっちゃって」

「へ~昔良い思いをしたんだ」
「だったら人生帳尻が合って、プラス、マイナスゼロになるもんよ」
「十分恩恵を被った訳だからね」
それを聞いてまた母が笑います。

そう、今が一番良いのです。

私のスイッチが入りました

「いい、お箸を持つ前に意識して手を開ける、そして握る」
そしたら握れるでしょう。

「大きな野菜は私が切ったり、カットするからね」
「大きなものは移動させるからね」
急がず、私がくる夜を待ってね。

「水泳は行って泳いできてね」
神経への伝達をたやさないようにね。

今の母にしてあげることは何か?
私はご飯を食べるのが、超絶早いのです。
一方、母はお箸が使えず、今までの倍の時間を要します。

それを見て私のとった行動はというと、左手で箸を使ってみたのです。
何とも不便で、母のイライラや苦労が分かります。

母が
「あんた、何してんの?」

「いや、難しいな」
「何があってもいいように、練習しとこと思って」

母が、笑いながら
「難しいやろ」

「うん、全然できないわ」

そして、同じくらいのペースで夕飯を終えるのです。

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