テーマ1 地域デザインの取り組み

介護事業所と地域包括ケアシステム

住民の立場からみた地域包括ケアシステムとは

業界のベクトルとしては、団塊の世代が75歳を迎える2025年問題、それにともなう認知症高齢者の増加、人口構造の変化や財源問題に包括的に取り組む手段として、その構築が急がれています。

これを一人の住民として客観的に捉えると、住み慣れた自宅で世話が受けられる、介護が必要になっても今の生活を続けられるなら、それはまさに「望み」そのものだと思います。

ただ国や自治体のそのような方向性が、必ずしも一般住民までは届いていないのが現実です。
それもそのはず、住民にとっての情報源は、理屈ではなく肌感覚で感じられるかどうかなのです。「広報に書かれている」そんな事は知った事ではありません。自分の周りにどれだけ変化が起き始めているか、それは実際に関わってくれる人が増えたのか、生活が便利になったのか、そんな感覚の重層化の延長に「ここで居ていいなんだ!自分も頑張ろう!」という主体性に繋がっていくのです。

主体性の本質は住民

業界関係者に対し、地域包括ケアシステム実現のために、地域の主体性に基づき、地域の特性に応じて構築するよう求められて久しいです。
例えばそれは、介護支援専門員が展開するケアマネジメントが、今までと同じではいけない事を意味します。医療機関でも、提供する医療内容、提供する場所、協力関係機関の種類や幅などが広がる事でその調整力が必須となります。

そのような中、介護事業所にはどのような事が期待されているのでしょうか。先進的な事業所はすでに、保険内サービス、保険外サービスをはじめ、見守り、配食、買い物など、多様な生活支援サービスを工夫し取り入れています。提供した内容が地域にマッチし発展している自治体もあれば逆もしかりです。

成功の秘訣は、住民をよく理解し、サービスが住民のニーズにぴったりとあえば、おのずとそのサービスは求められ評判になっていく、まさにマーケティングです。ではその住民をどのように理解すればいいのでしょうか。

リアルな接点を持つ

失敗の多くは、地域を抽象的な空間として捉えて、事業所内で想定した独りよがりのサービス、望まれているだろうという一方的な分析で商品化した場合に起こりがちです。

ここで改めて考えましょう。事業所が提供するサービスを受けるのは、一定エリア内に住む住民です。不特定多数を相手に販売する商品特性とは違い、訪ねていけば触れ合う事が可能な人々が顧客であるということです。ですから難しく考える必要はありません。

まずは事業所内から外に出て、直接住民の意見を聞く機会を持つということです。それは自治会の会合に参加することかもそれません。地域の清掃当番の際の立ち話かもしれません。介護サービスを提供したついでに交わした近隣の方々との挨拶の延長かもしれません。要するに、自社のゲートウェイ機能を意図的に構築しているかどうかがポイントです。

ゲートウェイ機能とは、異なるネットワーク同士をつなぐものであり、言い換えると事業所と地域のあらゆるコミュニティーをつなぐ機能です。その機能を果たしている人が自社に存在しますかという事です。それは事業所によっては施設長自ら機能を果たしている場合もあれば、外部接点が多く高いアンテナを持っている一定の職員かもしれません。

ともあれ、自然発生的に地域の情報が集まることは基本的にはありえないということです。まずは意図的にリアルな声に耳を傾けること、そして地域の中に潜在する多様な事業活動の芽を掘り起こし、自社の身の丈にあった実現可能な活動から始めてみてはいかがでしょうか。まずは「こんちは」「今日も頑張っているね」と声をかけてもらえる職員をどれだけ作れるかです。